特集【ポストバイオティクス(殺菌菌体・代謝物)】 世界が注目ポストバイオティクス
乳酸菌やビフィズス菌を語る上で、ついてまわるのが「プロバイオティクス」や「プレバイオティクス」といった定義。「プロバイオティクス」は、ヒト(宿主)に有益な作用をもたらす生きた細菌を指し、イギリスの微生物学者フラーが定義。「宿主の腸内細菌叢のバランスを改善することにより、宿主に良い効果をもたらす生きた微生物を含む添加物」とされる。抗生物質(アンチバイオティクス)に対比する概念として、共生を意味するプロバイオシスに由来して名付けられた。
「プレバイオティクス」は、プロバイオティクスの増殖を促進する物質を意味し、腸内フローラの中で宿主に有益な作用をもたらす有用菌にのみ選択的に利用される難消化性物質と定義される。イギリスの食品生物学者ギブソンらによって提唱された。「腸内の善玉菌が好んで食べる餌を摂取して元気になる」という考えだ。また、「プロバイオティクス」と「プレバイオティクス」を組み合わせたものが「シンバイオティクス」。双方の機能がより効果的に宿主の健康に有利に働くことを指す。
一方で、加熱殺菌した乳酸菌や乳酸菌が生産する代謝物などはこれらの定義だけでは説明が難しい。日本では、腸内細菌研究の第一人者とされる故光岡知足氏がこれらを総称し、「バイオジェニックス」と定義した。これは「腸内フローラを介さずに直接、免疫賦活、コレステロール低下作用、血圧降下作用、整腸作用などの生体調節・生体防御・疾病予防・回復・老化制御などに働く食品成分」としたもので、広義の意味では機能性素材全般に当てはまる。有用菌に限定していえば菌の状態(生き死に)は関係なく、腸内フローラのみならず免疫賦活作用などが相互に影響し、生理活性を高めることを指す。国内では長らくこうした定義のもと、殺菌菌体をはじめとした素材が独自に展開されていたが、残念ながら日本固有の概念に留まったといえなくもない。
しかしここにきて、死菌体や代謝物が定義されるようになってきた。それが「Postbiotics(ポストバイオティクス)」だ。ここ10年近くにわたって論文などでポストバイオティクスという用語が使用されていたが、その使われ方には一貫性がなく、漠然としていた。しかし、2019年に国際プロバイオティクス・プレバイオティクス科学協会(ISAPP)が、ポストバイオティクスの定義と範囲を論文化。「宿主に健康上の利益をもたらす無生物微生物および/またはその成分の製剤」としている。つまりは加熱殺菌や溶菌などによる死菌と菌が産生した代謝物が含まれるということになる。
ISAPPでは、「効果的なポストバイオティクスは、不活性化された微生物細胞または細胞成分を含んでいなければならない」とし、「代謝物の有無にかかわらず、観察された健康効果に寄与するものでなければならない」としている。こうした定義付けにより、現在ポストバイオティクスに対する理解度や認知度が広がりつつあり、特に海外ではプロバイオティクス、プレバイオティクスに次ぐ第3の領域として大きな関心が寄せられている。つづく
詳しくは健康産業新聞1791号(2024.7.3)で
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